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これも日常?

蘇芳 暁哉

 違法カジノへの潜入任務を終え、オルドへ帰還した数日後――

 俺は、任務に使用した衣装を返却するために管理部へやってきていた。

「ベルトあり、耳あり、手袋あり……」

備品、装飾品の紛失がないか衣装を点検しながら、担当者から渡された端末の確認画面にチェックをつける。

……ふと、衣装の隙間から紙片が飛び出していることに気付いた。不思議に思って引っ張り出せば、潜入先のカジノで使用されていたチップ専用の紙幣だった。

(うへえ……まだ残ってたのか。全部証拠品として提出したつもりだったのに)

 ディーラーとして働いている最中、泥酔した男性に「いいからとっておけ」とベルトの隙間にねじ込まれたものだ。その手つきのいやらしさに肌が粟立つ感覚を、今でも新鮮に思い出すことができる。

「はあ、あとで蒲葡さんのところに持ってくかあ……」

「おや、僕がどうしたんだい?」

 思わず身震いをしながら呟くと、今まさに思い描いていた人物がニコニコと笑って立っていた。その後ろには真朱さんもいる。手に持っているものを見る限り、彼らも俺と同じように衣装を返却しにきたようだった。

「ああ、いや。証拠品をうっかり提出し忘れてたなあって。ほら、チップですよ」

 ひらひらと紙幣を振ってみせると、蒲葡も真朱もすぐに合点がいったのか頷いた。

「あれ、恥ずかしかったなあ……。俺も、太もものところに入れられてたんだけど、胸のところにも、って迫られて……」
「あー……真朱さん、マジで気をつけてくださいね。押せばイケる感がすごいですから」
「そ、そうかなあ……。ちゃんと断ってるつもりなんだけど……」
「ああ、真朱くんは意外にもしっかりしているよ。
なんといっても、僕が何度助手にならないかと誘っても断るんだから」

「それとこれとは別じゃないですか?
蒲葡さんと月白さん、どっちと一緒に働くかってなったら、そう簡単には決められないでしょ」
「む……。医者として月白も優秀なことは認めるけどね。
僕ならあんなふうに、無茶苦茶に付き合わせたりしないよ!」

 心の底から、「自分と月白は違う」と思っているのだろう……。
 俺からしてみれば、どっちも頭がよくて、どっちもぶっ飛んだ人なのだからそう変わらない。

 だが、素直な感想を伝えたら、蒲葡さんがさらに怒るのは火を見るより明らかだ。俺は胸の家にそっとしまうことにした。これが処世術、大人になるということだ。

「朔羽くん、大丈夫だよ。朔羽くんも秀水さんと同じくらい、無茶ぶりしてるから」

 ……俺の気遣いは一瞬で彼方へ消え去った。
 真朱さんはケロリとした顔で、返却手続きを進めている。

「な……! 僕と月白が同じ……!?
それはありえないだろう!? どこがどう同じなんだ! 論理的な説明を求める!」

 真朱さんがはいはい、と手慣れた様子で蒲葡を宥めていると、怪訝そうな表情を浮かべたワルターがやってきた。

「皆さん、どうしたのですか……?」

 揃って衣装返却に来たのだと説明してやれば、ワルターは神妙な面持ちで頷いた。しかし、すぐにまた首を傾げる。

「ではなぜ、蒲葡さんは怒っているのでしょう?」
「真朱さんに、蒲葡さんも月白さんもそう変わらないって言われて怒ってる……って感じだな」

「ワルター! 真朱くんに教えてやってくれ!
僕は月白なんかとは違うんだって」
「確かに、蒲葡さんと月白さんは違いますね」
「そうだろう! 僕はあいつよりも――」
「ですが、真朱さんを含め、周囲を振り回しているという点ではそう変わりありません。
月白さんはわざとやっていると感じるときが多いくらいでしょうか」

「僕は振り回してる自覚がないって、言いたいのかい……?」
「はい。むしろ、振り回してる自覚がない、その自覚がないことに今驚いています」
「おお……。はっきり言うな、ワルター」

 ワルターによってトドメを刺された蒲葡さんは部屋の隅っこで落ち込み始めてしまった。さすがの蒲葡さんも、ワルターにここまで言われると凹むらしい。
 真朱さんがすかさず、蒲葡さんのフォローに回っている。

「隠しても仕方ありませんから。それに、蒲葡さんに無茶なところは直してほしい点ではありますが……悪いところだとも思いません」

 表情ひとつ変えずに言い放ったワルターに、思わず俺は笑みをこぼした。出会った当初は、イヤミの一種なのかと思ったが……ワルターはそれほど器用ではない。これは本心からの言葉なのだと今ならわかる。

 自分の上司が、そんな実直な人でよかった。
 ワルターがいてくれるからこそ、思わずため息を吐きたくなるような任務も頑張れる。

 それはきっと、蒲葡さんも真朱さんも、ほかのみんなも同じだろう。……若干怪しい人間は何名かいるが。

 俺はワルターをちらりと見やる。そこで、ワルターが手に持ったPDAに気が付いた。ヒューマノイドであるワルターは、PDAを必要としない。自分自身が端末のようなものなのだから、持ち歩かずとも事足りるはずだ。

 ワルターがPDAを持ち歩く必要があるときは、人間になにかを見せるとき……つまり、今は管理部へなにか資料を共有しなければならないのだろう。
 諦めたような遠い目をして蒲葡さんと真朱さんを見つめるワルターへ、助け舟を出すつもりで尋ねた。

「そういえば、ワルターはなんの用事で管理部に来たんだ?
ワルターは今回、衣装借りてないだろ?」

「ああ、その……また潜入用の衣装が必要になりそうでして……」

 途端に顔を曇らせたワルターにつられて、俺もため息を吐き出した。

「……人が見つからなかったら俺を呼んでいいから、な?
んで、次はどんな変な衣装なんだ?」